営業の離職率を下げる方法――「辞めたい」の本音は、実は会社への愛情だった

営業の離職率を下げる方法――「辞めたい」の本音は、実は会社への愛情だった

 

ある営業部長が、こんなことを言った。

 

「うちの会社、毎年10人採用して、8人辞める。もう慣れてしまった」

 

慣れてしまった――その言葉が、すべてを物語っている。

 

離職率の高い営業組織に共通する「ある誤解」

 

多くの会社は、営業の離職を「根性のない人材が去っていく自然淘汰」だと思っている。

 

でも、本当にそうだろうか?

 

水平思考でこの問題を見てみると、まったく違う景色が見えてくる。

 

辞める営業マンは、無関心な人ではなく、むしろ感情豊かな人である場合がほとんどだ。

 

理不尽なノルマに怒りを感じ、お客様に申し訳なさを感じ、チームの雰囲気に違和感を覚え――そうして何度も「もっとよくなれるはず」と思いながら、ある日静かに限界を迎える。

 

「辞めたい」という気持ちは、会社への失望ではなく、もともと抱いていた期待の裏返しなのだ。

 

離職率を下げようとして、なぜか上がってしまう「罠」

 

よくある対策を並べてみよう。

 

∙給与を上げる

∙研修を増やす

∙表彰制度をつくる

∙1on1ミーティングを導入する

 

どれも間違いではない。だが、これをやっても離職率が下がらない会社が後を絶たない。なぜか?

 

「辞める理由」と「辞めない理由」は、まったく別物だからだ。

 

給与が低いから辞める、は正しい。

しかし給与を上げても、辞めない理由にはならない――心理学者フレデリック・ハーズバーグが半世紀前に証明したこの事実を、多くの会社がいまだに見落としている。

 

人が会社に居続ける理由は、「不満がないこと」ではなく、「ここにいる意味を感じられること」だ。

 

離職率を劇的に下げた会社が、実際にやったこと

 

ある中堅の保険会社の話をしよう。

 

毎年40%を超えていた営業職の離職率が、2年で12%まで下がった。何をしたのか?

 

給与は変えていない。ノルマも変えていない。

 

変えたのは、たった一つの文化だった。

 

「失注を報告できる空気」をつくったのだ。

 

それまでその会社では、受注の報告は大々的に称えられるのに、失注は黙って処理するものだった。つまり、営業マンは毎日「負けた自分」を誰にも言えずに抱えていた。

 

新しいマネージャーは朝礼でこう言った。

 

「今週、誰か盛大に失注した人いる? 話してよ、みんなで考えようよ」

 

最初は誰も手を挙げなかった。3週間後、一人の若手が恐る恐る手を挙げた。笑いと共感と知恵が、会議室を包んだ。

 

その翌月から、退職希望者の数が減り始めた。

 

「辞めたい」の前に必ずある、5つのサイン

 

離職は突然起こらない。必ず予兆がある。

 

1. 報告が短くなる

以前は熱く語っていた商談の話が、「特になし」の一言で終わるようになる。

 

2. 愚痴の質が変わる

「お客さんが…」から「この会社が…」に変わったとき、心はすでに半分外にある。

 

3. 成長の話をしなくなる

「将来こういうお客様を担当したい」という未来の話が消えたとき、その人の中に「ここでの未来」がなくなっている。

 

4. 同僚への関心が薄れる

飲み会に来なくなる、同僚の話題を振っても反応が薄い。これは「もうこの人たちと長くいるつもりはない」というサインだ。

 

5. 急に整理整頓が始まる

デスクを綺麗にし始めたら、心の中の引き出しも整理されていると思っていい。

 

離職率を下げる、本質的な3つのアプローチ

 

① 「数字」より「物語」で営業を語る

 

ノルマは人を動かさない。物語が人を動かす。

 

「今月あと5件」ではなく、「あなたが担当したあのお客様、契約後に『家族に感謝された』って言ってたよ」――この一言のほうが、100万円のインセンティブより人の心に火をつけることがある。

 

② マネージャーを「管理者」から「翻訳者」へ

 

優れたマネージャーとは、会社の言葉を現場に翻訳し、現場の声を経営に翻訳できる人だ。この翻訳機能が壊れている組織では、営業マンは「自分は歯車だ」と感じ始め、やがて機械には感情がいらないとばかりに去っていく。

 

③ 「辞めた人」を悪者にしない

 

退職者を「根性なし」「裏切り者」扱いする文化がある組織は、在籍している社員にも同じメッセージを送り続けている。「あなたも辞めたら、こう言われますよ」と。

 

退職者をOBとして尊重し、時にはランチに誘えるような関係を保てる会社には、不思議と「辞めにくい空気」ではなく「辞める理由が見当たらない空気」が生まれる。

 

最後に――離職率は、会社の「正直さ」のバロメーターだ

 

人が辞めるとき、会社の何かが嘘をついている。

 

「うちは風通しがいい」と言いながら、上司への反論は許されない。

「成長できる環境」と言いながら、去年と同じやり方しか認めない。

「チームワークを大切に」と言いながら、成果は個人で競わせる。

 

営業マンは敏感だ。毎日お客様の本音と建前を読み取る訓練をしているのだから、自分の会社の嘘くらい、すぐに見抜く。

 

離職率を下げたいなら、まず会社が自分自身に正直になることだ。

 

「うちはどんな会社でありたいか」――その問いに、経営者とマネージャーと現場が同じ言葉で答えられる日、きっと誰かの「辞めようかな」が「もう少しいてみようか」に変わる。

 

あなたの営業チームに、今日も誰かの「辞めたいサイン」が出ていないか。明日の朝礼の前に、もう一度だけ、チームの顔を思い浮かべてみてほしい。